高校数学[総目次]
数学Ⅱ 第5章 指数関数・対数関数
| スライド | ノート | 問題 | |
| 1. 指数の拡張 | |||
| 2. 指数関数 | |||
| 3. 対数とその性質 | |||
| 4. 対数関数 | |||
| 5. 常用対数 |

1.指数の拡張
これまでに学んだのは $5^2$ や $a^4$ など,指数部分が自然数であった.例えばこれらは
\[5^2=5\times5,\hspace{5mm} a^4=a\times a\times a\times a\]
を意味しており,$n$ を自然数として $a^n$ というのは「$a$ を $n$ 回掛ける」のであった.
ここで指数 $n$ を
自然数 → 整数 → 有理数 → 実数
へと拡張することを考える.まずは「自然数 → 整数」の拡張から始めよう.

1.1 0や負の整数の指数
50 や 3-2 は何を意味するのか
$a\neq0$ とする.$a^0$ や $a^{-2}$ を考えていくのであるが,「$a$ を0回掛ける」や「$a$ を $-2$ 回掛ける」では意味が通らない.ではこれらの数をどのように取り決める(定義する)のがよいだろうか.
$a^2$ から $a^3$ へと指数が1だけ増加すると,数は $a$ 倍された.逆に,$a^3$ から $a^2$ へと指数を1だけ小さくすると,数は $\dfrac1a$ 倍される.この規則を $a(=a^1)$ から $a^0$ の場合にも適用すると,$a^1$ を $\dfrac 1a$ 倍したものが $a^0$ だと考えて
\[a^0=a^1\times\frac1a=1\]
とするのが自然であろう.
更に $a^0(=1)$ から $a^{-1}$ の場合についても
\[a^{-1}=a^0\times\frac1a=1\times\frac1a=\frac1a\]
と考えることができる.
$a\neq0$ のとき,

このように考えて,0や負の整数の指数を次のように定義する.
定義 $a\neq0,\ n$ が正の整数のとき,\[a^0=1,\ a^{-n}=\frac1{a^n},\ \left(\mbox{特に,}a^{-1}=\frac1a\right)\]
例
(1) $5^0=1$
(2) $3^{-2}=\dfrac1{3^2}=\dfrac19$
(3) $(-2)^{-3}=\dfrac1{(-2)^3}=\dfrac1{-8}=-\dfrac18$
(4) $0.2^{-3}=\left(\dfrac15\right)^{-3}=\dfrac1{\left(\frac15\right)^3}=5^3=125$
注意
双方向の変形をスムーズに
$a^{-n}=\dfrac1{a^n}$ と定義した(取り決めた)訳だが,こうした等式は左から右への変形のみならず,右から左への変形,すなわち $\dfrac1{a^n}=a^{-n}$ という書き換えもスムーズにできるようにしておきたい.例えば
$\dfrac1{a^2}=a^{-2},\ \dfrac1{5^4}=5^{-4}$
等々.
これは例えば分配法則
\[a(b+c)=ab+ac\]
という等式が,左辺から右辺へ変形($a$ を文字通り分配するということ)と,逆の右辺から左辺への変形($ab+ac$ を $a(b+c)$ へとまとめることができるということ)が同程度に重要であることに通底する.
等式とは等号「=」で結ばれた左辺と右辺が同じものであることを意味するから,双方向への移動が自由に行える点が本質的である.

1.2 整数の指数法則
拡張しても指数法則はすべて成り立つ
これまで自然数であった指数を,整数にまで拡張したが,拡張したあとであってもこれまで成り立っていた指数法則はすべて成り立つ.
(本当のところは指数法則が成り立つように,0や負の整数の指数を定義したのである.)
$a\neq0,\ b\neq0$ で,$m,\ n$ が整数のとき,\begin{align*} &[1]\ a^ma^n=a^{m+n}\\[5pt] &[2]\ (a^m)^n=a^{mn}\\[5pt] &[3]\ (ab)^n=a^nb^n\\[5pt] &[4]\ \frac{a^m}{a^n}=a^{m-n}\\[5pt] &[5]\ \left(\frac ab\right)^n=\frac{a^n}{b^n} \end{align*}
例
$[1]\ \ a^2a^{-3}=a^2\cdot\dfrac1{a^3}=\dfrac1a=a^{-1}=a^{2-3}$
$[2]\ \ (a^2)^{-3}=\dfrac1{(a^2)^3}=\dfrac1{a^6}=a^{-6}=a^{2\cdot(-3)}$
$[3]\ \ (ab)^{-2}=\dfrac1{(ab)^2}=\dfrac1{a^2b^2}=a^{-2}b^{-2}$

1.3 累乗根
$a$ の $n$ 乗根とは何か
$\boldsymbol a$ の $\boldsymbol n$ 乗根 $n$ を正の整数とするとき,$n$ 乗して $a$ になる数を
$a$ の $n$ 乗根
という.
$a$ の $n$ 乗根は,方程式 $x^n=a$ の解である.
例
$9$ の2乗根(平方根ともいう)
$x^2=9$ より $x^2-9=0$
$\therefore (x+3)(x-3)=0$
よって,$3$ と $-3$
$8$ の3乗根(立方根ともいう)
$x^3=8$ より $x^3-8=0$
$\therefore (x-2)(x^2+2x+4)=0$
よって,$2$ と $\ -1+\sqrt3i$ と $-1-\sqrt3i$
$-8$ の3乗根
$x^3=-8$ より $x^3+8=0$
$\therefore (x+2)(x^2-2x+4)=0$
よって,$-2$ と $\ 1+\sqrt3i$ と $1-\sqrt3i$
$16$ の4乗根
$x^4=16$ より $x^4-16=0$
$\therefore (x^2-4)(x^2+4)=0$
よって,$2$ と $-2$ と $2i$ と $-2i$
補足
① 2乗根,3乗根,4乗根,… をまとめて累乗根(るいじょうこん)という.
② 複素数の範囲で考えると,一般に $a\neq0$ のとき,$a$ の $n$ 乗根は $n$ 個ある.

1.4 $n$ 乗根 $a$
「$n$ 乗根 $a$」と「$a$ の $n$ 乗根」は違うもの
前節で「$a$ の $n$ 乗根」というものを学んだが,これに似た用語に「$n$ 乗根 $a$」がある.これらは異なるものなので気を付けなければならない.
中学校において $\sqrt 2$ や $\sqrt 3$ という数に初めて出会ったはずである.これらをそれぞれ「2乗して2になる数」「2乗して3になる数」といささか素朴に記憶している向きもあるだろう.
しかしながらその表現では不十分であって,正しくはそれぞれ「2乗して2になる正の数」「2乗して3になる正の数」である.
また別の例をとると,すぐ上の累乗根のところで確認したように,$9$ の $2$乗根(平方根)は,$3$ と $-3$ であるが,$\sqrt9$ という記号が指し示すのはこのうち正の方,すなわち $3$ であることをここで明確にしておきたい:
\[\sqrt9=3\]
一方 $-3$ の方は $-\sqrt9$ と書き表すのである.
時折 $\sqrt9=\pm3$ と書く人を見かけるが,これは今説明した通り正しくない.$\sqrt9$ が意味するものはあくまでも正の値 3 なのだ.
私たちが学ぼうとしている「$n$ 乗根 $a$」は,この概念の1つの拡張にほかならない.
すなわち2乗して $a$ になる正の数,3乗して $a$ になる正の数, さらには4乗,5乗と,次第に高次へと広がるそれら一連の数を指し示すものである.
「$n$ 乗根 $a$」とは?
まずは $a$ を正の数に制限して話を進める.
以降展開される指数関数,及び対数関数の理論は,いずれもこの前提のもとに構築される.
この場合についての理解こそが何よりも肝要であり,またこの場合を理解しておけば,困難に直面する局面は極めて限定的となるであろう.

