恒等式とは｜方程式との違いや性質・具体例をスライドでやさしく解説

高校数学[総目次]

数学Ⅱ　第1章　式と証明

	スライド	ノート	問題
1. 整式の除法
2. 分数式
3. 恒等式
4. 等式の証明
5. 不等式の証明

3. 恒等式

3.1　恒等式と方程式

恒等式

　どんな値でも成り立つ等式

例

・$2(x+3)=2x+6$
・$x^2-2x+1=(x-1{)}^2$

補足

　どんな値でも等号が成立する恒等式に対して，特定の値でしか等号が成立しない式を方程式という．

例　$a,b$ を定数とするとき，$ax+b=2x+3$という等式について．

恒等式とみる

　どんな値でも等号が成り立つから，
　　$x=0$ を代入して $a\cdot 0+b=2\cdot 0+3$
　　　　　$\therefore b=3$
　　$x=1$ を代入して $a\cdot 1+3=2\cdot 1+3$
　　　　　$\therefore a=2$
　逆に，$a=2,b=3$ のとき，明らかに与式は恒等的に成り立つ．
　以上により，$\underset{―}{\mathit{a}\mathbf{=}\mathbf{2}\mathbf{,}\mathit{b}\mathbf{=}\mathbf{3}}$

方程式とみる

　与式を変形して，

$(a-2)x=3-b\cdots$ ①

(i) $a\ne 2$ のとき，$x={\displaystyle \frac{3-b}{a-2}}$

(ii) $a=2$ のとき
　①は　$0x=3-b$
　よって，$b=3$ のとき，$x$ は任意の実数
　　　　　$b\ne 3$ のとき，解なし

　以上により，

　　$\mathit{a}\mathbf{\ne }\mathbf{2}$ のとき，$\mathit{x}\mathbf{=}{\displaystyle \frac{\mathbf{3}\mathbf{-}\mathit{b}}{\mathit{a}\mathbf{-}\mathbf{2}}}$
　　$\mathit{a}\mathbf{=}\mathbf{2}$ のとき
　　　$\mathit{b}\mathbf{=}\mathbf{3}$ ならば，$\mathit{x}$ はすべての実数
　　　$\mathit{b}\mathbf{\ne }\mathbf{3}$ ならば，解なし

3.2　恒等式の性質

恒等式の性質(1)　$a,b,c$ を定数として，$$a{x}^2+bx+c=0\text{が恒等式}⟺a=b=c=0$$

証明

$\Leftarrow )$ 明らか．

$\Rightarrow )$ $x=0,1,-1$ とおくと $$\{\begin{array}{r}c=0\\ a+b+c=0\\ a-b+c=0\end{array}$$ $$\therefore a=b=c=0$$

■

上の性質からただちに次も成り立つ：

恒等式の性質(2)　$a,b,c,a^{\prime },b^{\prime },c^{\prime }$ を定数として，$$\begin{array}{rl}a{x}^2+bx+& c=a^{\prime }{x}^2+b^{\prime }x+c^{\prime }\text{が恒等式}\\ & ⟺a=a^{\prime },b=b^{\prime },c=c^{\prime }\end{array}$$

証明

$$\begin{array}{rl}& a{x}^2+bx+c=a^{\prime }{x}^2+b^{\prime }x+c^{\prime }\text{が恒等式}\\ ⟺& (a-a^{\prime })x^2+(b-b^{\prime })x+(c-c^{\prime })=0\text{が恒等式}\end{array}$$ 　よって上の性質により， $$a-a^{\prime }=0,b-b^{\prime }=0,c-c^{\prime }=0$$ $$\therefore a=a^{\prime },b=b^{\prime },c=c^{\prime }$$

■

例題　${\displaystyle \frac{3x-5}{(2x-1)(x+3)}}={\displaystyle \frac{a}{2x-1}}+{\displaystyle \frac{b}{x+3}}$ が $x$ についての恒等式のとき，$a,b$ の値を求めよ．

解法1

　両辺に $(2x-1)(x+3)$ を掛けて， $$\begin{array}{rl}3x-5& =a(x+3)+b(2x-1)\\ \therefore 3x-5& =(a+2b)x+3a-b\end{array}$$ 　両辺の係数を比較して， $$\{\begin{array}{l}a+2b=3\\ 3a-b=-5\end{array}$$ $$\therefore \underset{―}{\mathit{a}\mathbf{=}\mathbf{-}\mathbf{1}\mathbf{,}\mathit{b}\mathbf{=}\mathbf{2}}$$

解法2

　両辺に $(2x-1)(x+3)$ を掛けて， $$3x-5=a(x+3)+b(2x-1)\cdots \text{①}$$ 　この式の $x$ を ${\displaystyle \frac{1}{2}}$ とおいて， $$\begin{array}{rl}3\cdot \frac{1}{2}-5& =a(\frac{1}{2}+3)+b(2\cdot \frac{1}{2}-1)\\ -\frac{7}{2}& =\frac{7}{2}a\\ \therefore a& =-1\end{array}$$ 　同様に，$x=-3$ とおいて， $$\begin{array}{rl}3\cdot (-3)-5& =a(-3+3)+b\{2\cdot (-3)-1\}\\ -14& =-7b\\ \therefore b& =2\end{array}$$ 　逆に，$a=-1,b=2$ のとき，①の右辺と左辺は同じ式になるから，$\underset{―}{\mathit{a}\mathbf{=}\mathbf{-}\mathbf{1}\mathbf{,}\mathit{b}\mathbf{=}\mathbf{2}}$ が求めるものである．

非常によくある質問

補足

　解法2において，最後に逆を確かめたが，実は本問では不要である．というのも①式，即ち

$$3x-5=a(x+3)+b(2x-1)$$

の左辺は1次式，右辺は1次以下の式であるから，2つの $x$ の値で等号が成り立てば，それ以外の全ての実数 $x$ についても等号が成り立つのである．(1次関数のグラフは直線であるが，直線は通る2点を指定すればただ1つに定まる．)

　しかし一般には次のような例もあるため，「逆」を確認しておくのが無難である．

例　次の式が恒等式となる定数 $a,b$ は？ $$4x^2=a(x+1{)}^2+b(x-1)$$

　両辺の $x$ を１とおいて $a=1$，また $x=-1$ とおいて $b=-2$．
　すると与式は $$4x^2=1(x+1{)}^2-2(x-1)$$ となるが，右辺は $x^2+3$ となるから恒等式ではない．
※　実は上の式が恒等式となる定数 $a,b$ は存在しない．

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