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高校数学[総目次]

数学Ⅲ 第1章 極限

  スライド ノート 問題
1. 数列の極限 [無料]    
2. 無限等比数列 [無料]    
3. 無限級数      
4. 無限等比級数      
5. 関数の極限      
6. (sin x)/x の極限      
7. 関数の連続性      

1.1 収束と発散

 数列は数学Bで既に学習済みだが,数学Bでは数列の一般項や和に関する取扱いが中心であった.
 数学Ⅲでは,数列の番号 $n$ を大きくしていったときの数列の振る舞い,すなわち一定の値にどんどん近づいていくのか,果てしなく増大していくのか,あるいは逆に小さくなっていくのか,などについての考察を行う.

 数列には,項がある番号で終了する有限数列と,いつまでも終わることなく項が無限に存在している無限数列に大別できる.私たちの考察の対象は,専ら後者の無限数列の方である.

 例えば $a_n=\dfrac1n$ という無限数列 $\{a_n\}$ を考えよう.具体的には

\[1,\ \dfrac12,\ \dfrac13,\ \cdots,\ \dfrac1n,\ \cdots\]

である.

 この数列の番号 $n$ をどんどん大きくしていくと,$a_n=\dfrac1n$ は0に限りなく近付いていくであろう.

 このとき,数列$ \{a_n\}$ は0に収束するといい,

\[\lim_{n\to\infty}a_n=0\]

と書き表す.

 一般に,数列 $\{a_n\}$ の番号 $n$ を限りなく大きくすると,$a_n$ が一定の値 $\alpha$ (アルファ)に限りなく近付くとき,

\[ \lim_{n\to\infty} a_n=\alpha \hspace{5mm}\cdots(*)\]

で表し,このとき数列 $\{a_n\}$ は,$\alpha$ に収束するという.
 また,$\alpha$ を数列 $\{a_n\}$ の極限値という.

 一方,収束しないとき,還元すれば一定の値に近づいていかない数列$\{a_n\}$ は,発散するという.

補足

 $(*)$は

$n\to\infty$ のとき,$a_n\to\alpha$
または
$a_n\to\alpha\ (n\to\infty)$

とも書く.

収束する例

  1. $a_n=\dfrac 5n+2$ のとき,$\displaystyle{\lim_{n\to\infty}a_n=2.}$
  2. $a_n=\dfrac n{2n+1}$ のとき,$\displaystyle{\lim_{n\to\infty}a_n=\lim_{n\to\infty}\dfrac1{2+\dfrac 1n}=\dfrac 12.}$

収束しない例

  1. 正の無限大に発散する.(極限は $\infty$ )
     $a_n=n,\ a_n=n^2,\ a_n=\log_2n$
    これらは $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}a_n=\infty}$
  2. 負の無限大に発散する.(極限は $-\infty$ )
     $a_n=-n,\ a_n=-5n+7,\ a_n=-3^n$
    これらは $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}a_n=-\infty}$
  3. 振動する.\[\begin{align*} &a_n=(-1)^n\ :\ {-1,\ 1,\ -1,\ 1,\ \cdots}\\[5pt] &a_n=\sin\dfrac \pi 2n\ :\ {1,\ 0,\ -1,\ 0,\ 1,\ \cdots} \end{align*}\]

注意

 「$\infty$」や「$-\infty$」は値ではない.よって,例えば $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}a_n=\infty}$ のとき,
    数列$\{a_n\}$ の極限は $\infty$.
    数列$\{a_n\}$ の極限は $\infty$.
というように,$\infty$ や $-\infty$ を指して極限「値」とは言わない.

1.2 極限の性質

 収束する数列の極限について,次が成り立つ.

極限の性質

数列${a_n},\ {b_n}$ が収束し,$\displaystyle{\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha},\
$$\displaystyle{\lim_{n\to\infty}b_n=\beta}$ のとき,

① $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}}ka_n=k\alpha$ ($k$ は定数)

② $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}}(a_n\pm
b_n)=\alpha\pm\beta$ (複号同順)

③ $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}}(ka_n+lb_n)=k\alpha+l\beta$ ($k,\
l$ は定数)

④ $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}}a_nb_n=\alpha\beta$

⑤ $\displaystyle{\lim_{n\to\infty}}\dfrac{a_n}{b_n}=\dfrac
\alpha\beta$ ($\beta\neq0$)

 これらは直感的に受け入れやすいものばかりであるが,厳密には証明が必要である.
 しかしながらこれらを証明するには高校数学の範囲では足りない.
 そこで雰囲気を少しだけ次のコラムで紹介してみよう.

コラム 数列が収束することの厳密な定義

 数列 $\{a_n\}$ が $\alpha$ に収束するというとき,高校数学では 数列 $\{a_n\}$ が $\alpha$ に限りなく近付くことを指していた.
 この表現は大変わかりやすく,多くの人にとって違和感なく受け入れられるものであろう.

 しかしその一方で,限りなく近付くといってもどこまで近づけば限りなく近付いたことになるかは人それぞれによって感覚が異なる.
 そこで,「限りなく」という言葉を排して,数列 $\{a_n\}$ が $\alpha$ に収束するということを次のように定義し直す:

 数列 $\{a_n\}$ が $\alpha$ に収束するとは,任意の正の数 $\varepsilon$ (イプシロン,ギリシャ文字)に対してある自然数 $N$ が存在して,$n> N$ であるすべての自然数 $n$ で, $|a_n-\alpha|<\varepsilon$ が成り立つときをいう.

 これが数列 $\{a_n\}$ が $\alpha$ に収束することの厳密な定義であり,大学で学ぶ解析学ではこの定義をもとに講義が展開される場合がある.

 この独特の言い回しはいわゆる $\varepsilon$-$\delta$ 論法(イプシロン-デルタ論法)と呼ばれるもので,数列の極限では $\delta$ の代わりに $N$ が登場するので $\varepsilon$-$N$ 論法と言ったりもするようだが,とにかく慣れるまでは何を言っているのかさっぱりわからないというケースが多い.

 この定義を元にして,上の極限の性質を証明するのである.

注意