高校数学[総目次]
高校数学ワンポイント

11.コーシー・シュワルツの不等式
1.コーシー・シュワルツの不等式(ベクトル形)
有名不等式として真っ先に思いつくのは,相加・相乗平均の関係式 でしょうが,次に挙げるコーシー・シュワルツの不等式も,名前こそ教科書には出てこないものの,この不等式が背後にあるといった問題は時折見かけます.また,単にシュワルツの不等式と呼ばれることも多いです.
空間内の2つのベクトル →(a,→(b のなす角を θ とすると,
→(a⋅→(b=|→(a||→(b|cosθ
ですが,−1≦cosθ≦1 ですから
−|→(a||→(b|≦→(a⋅→(b≦|→(a||→(b|
即ち
(0≦) |→(a⋅→(b|≦|→(a||→(b|
となります.従って
|→(a⋅→(b|2≦|→(a|2|→(b|2
が成り立ちます.→(a=(a1,a2,a3),→(b=(b1,b2,b3) として,両辺を成分で表せば,次のコーシー・シュワルツの不等式が得られます:
コーシー・シュワルツの不等式
 a1,a2,a3,b1,b2,b3 を実数とするとき,
(a1b1+a2b2+a3b3)2≦(a12+a22+a32)(b12+b22+b32)
が成り立つ.
 等号成立は,a1=a2=a3=0,または b1=b2=b3=0,または
b1a1=b2a2=b3a3
が成り立つときで,分母,分子の一方が0のとき,他方も0となる.
等号が成立するのは a1=a2=a3=0,または b1=b2=b3=0 のときは当然として,それ以外の場合は |→(a⋅→(b|=|→(a||→(b| が成り立つ場合です.内積の定義に立ち返ると |cosθ|=1 となるときで,それは θ=0∘ か 180∘ のときです.このとき2つのベクトル →(a,→(b は平行ですから,→(b=k→(a となる実数 k が存在し,成分で書き表すと,
(b1,b2,b3)=k(a1,a2,a3)
従って
b1=ka1, b2=ka2, b3=ka3 ⋯①
です.a1,a2,a3 がいずれも0でなければ
b1a1=k, b1a1=k, b1a1=k
となって
b1a1=b2a2=b3a3
を得ます.どれか1つの成分が0であれば,対応する成分も0でなければならないことは,①を見れば理解できます.
補足
実はこの不等式は
(a1b1+a2b2+⋯+anbn)2≦(a12+a22+⋯+an2)(b12+b22+⋯+bn2)
というように任意の自然数 n でも成り立ちます.
例題 x+2y+3z=4 のとき,x2+y2+z2 の最小値を求めよ.
解答例を見る
いろいろな解法が考えられますが,コーシー・シュワルツの不等式を使ってみます.
→(a=(1,2,3),→(b=(x,y,z) として,
→(a⋅→(b=x+2y+3z|→(a|2=12+22+32|→(b|2=x2+y2+z2
となりますから,コーシー・シュワルツの不等式により
(x+2y+3z)2≦(12+22+32)(x2+y2+z2)
∴42≦14(x2+y2+z2)
∴x2+y2+z2≧1614=87
等号が成立するのは,
x1=y2=z3 かつ x+2y+3z=4
即ち x=27, y=47, z=67 のときです.
従って x=27, y=47, z=67 のとき,最小値 27 をとることがわかります.

2.コーシー・シュワルツの不等式(積分形)
まず次の例題をご覧ください.
例題 p,q を定数とするとき,次の不等式を証明せよ.
(∫10(x+p)(x+q)dx)2≦∫10(x+p)2dx∫10(x+q)2dx
これを単なる計算問題とみれば,次のように証明されます:
